軽快な戦慄

 ドビュッシーとMJQとピクシーズをザッピング。雪のせいだろうか、引き延ばした夢のせいだろうか、薄暗い部屋の中でどうにも落ち着かない。
 夢。真っ赤な口紅で唇を塗りつぶす。と同時に、白目も真っ赤に塗りつぶされてゆく。目のふちが熱を帯び、視界が赤く染まる。
 鏡で顔を確認する。まったく異常なし。ついでに、今年の初めにできた変な二重が消えかかっていることに気づく。もうこのままなんだと思っていた。夏に「二重になったまま戻らない」と言ったわたしに、「それって歳のせいだよ」と、彼女はちょっと意地悪く、そして自嘲気味に笑ったのだ。
 彼女にはアル中の素質がある、と内心わたしは思っていた。Yも同じことを感じたらしく、「俺、急に怖くなった」と彼女とわたしの前で言った。「えーならないよ。わたしお酒よわいもん」彼女はきょとんとした感じで可笑しそうに否定した。ふっと一瞬意識が遠くなるような、あるいは一瞬焦点が合って視界がクリアになるような、軽い戦慄を憶える。わたしはそんな場面に出くわすと、嫌悪を伴う興味と背徳を伴う快楽で、いつもぞくぞくしてしまう。人は自分の狂っている感覚に対して往々にして無自覚だ。
 あなたはセックス依存症じゃないし、わたしはアルコール依存症じゃない。予想はまったく逆じゃないかな。そして、Yはうつじゃない。儀式行為を必要とした、典型的な強迫神経症だよ。